ラスト



7



見なれた背中が視界に入った。
ああ、彼だ。

僕は彼を呼んだ。

『キョン君。』

『……。』

彼は振り向かない。
それにおかしいな、さっきより彼の背中が霞んでいる。
眼の調子が悪くなったのかな…。

『キョン君…キョン君?』

『…。』

『!!』

また、彼が霞んだ。
このままでは、消えて…。


『キョン君!!』


『』


また、霞んだ。
なぜ?彼の名を呼ぶたびに彼が霞む…。


名前、を…。


『キョンく…。』





一瞬。彼の声がはっきりと聞こえた。



『時間切れだ。』



次の瞬間、彼は消えた。
あとかたもなく。



#######


「!!!」


眼を覚ますと、見なれた僕の部屋の天井だった。
(…夢、だったのか…。)

なんて夢だ。名を呼ぶたびに彼がいなくなる…。

「…いや、夢じゃない…か…。」

僕は昨日の出来事を思い出した。
彼の魂が、命が、存在が消えてしまった昨日。
人ならぬものであったことを知った昨日。

全てが手遅れだと突然知らされた昨日…。

目頭を押さえる。
少し泣いたのか、濡れていた。

そういえば昨日、朝比奈さんの前でも泣いてしまったっけ。
…長門さんにも醜態を見せてしまった…。

僕らしくない…と思いながらも、僕らしさなど保ったところで毛ほどもあの状況を変えることはできなかった。
それなら、何の意味もないことだ。


「…いや…。」

そうだ…状況を変えられるかもしれない、その情報を長門さんから得ていた。
今日は、行動を起こす日だ。


幸いにも今日は創立記念日で、学校はない。
問題は定例の不思議探索だが…。


そう思った時、携帯が鳴り響いた。
この音は機関じゃない…涼宮さんだ。


「…はい。」
『あ…古泉くん?おはよ。』
いつもより少し元気のない涼宮さんの声が聞こえてきた。

そうだ、彼女は、神は彼が消えたことを知らない…。
今更ながらにそのことに気づく。

今知らずとも、今日彼が来ないことを知れば、彼の電話がつながらない事を知れば、
彼の家に行っても彼の存在が最初からないことになっていると知れば。


『今日ね、ちょっと野暮用ができちゃって。
 不思議探索は中止。

 みくるちゃんと有希には連絡を入れておいたから。
 古泉くん、キョンに連絡しておいてくれる?』

「…あ、そうなんですか。」
中止の連絡を聞いて少し胸をなでおろす。
だが、少し疑問は残る。

いつも自分で連絡するだろうに、どうして僕に。
いや、その方が好都合ではあるが…。

この疑問には彼女からすぐに答えが返ってきた。

「キョンにも連絡入れたいんだけど…。
 …昨日あんな笑えない冗談言ったから、罰として団長からの連絡はなしにしてやったの。
 古泉くん、キョンに重々反省するよう伝えておいてね!」

(…ああ、そうか。)
「そうですか、承知しました。」
僕はいつものように答えた。

そして短い挨拶をして電話は切れた。


ふう、と小さくため息をつく。
彼女は、昨日の彼の冷たい態度をまたとられることを恐れているのだ。
…でも、もっと恐ろしい事態になっていることを彼女は知らない。

いずれ知ることになるとしても…彼女は知らない方がいいだろう。

そして、知ったとしても受け入れてほしくないと思っている。
この残酷な「不思議」を。



彼女が受け入れれば、今度こそ彼は戻らないかもしれないから。




それから5分後、今度は長門さんからの電話を受けた。


内容は簡潔だった。


『T市の桜花学園に来て。』




すでに僕の準備はできていた。



########


「長門さん、朝比奈さん。」
「待っていた。」


数十分後に、僕は彼女の指定した高校にたどり着いていた。
N市から電車を1本乗り継いだところにあるT市の桜花高校。
私立の中高一貫の高校だ。

北高は創立記念日だが、当然の如く平日なその日、
桜花高校の生徒たちが登校する中、僕たちは待ち合わせをしていた。

不思議そうな眼は向けられるが、気にしている余裕はなかった。


さて、なぜここを彼女が指定したのかは分かっていたが。
意外な思いは隠せなかった。


「…ここに、彼の精神体がとどまっている…ということですか?」
「性格には、彼の精神体を所有する人物がいる。
 その人物がいるのがここ。」

「じん、ぶつ…?人が?人が精神体を所有しているんですか?
 そんな…ことが…。」
「情報統合思念体もこの現象がこの惑星に存在している事を認識してはいなかった。」
「…未来でもこんな生物がいるなんて…把握できてません。
 聞いたこともなかったです…。」


宇宙も、未来も存在を知らない…。
彼が…そんな「存在」だったのか…。

驚きは隠せなかった。

驚いている間に長門さんは、僕の背後を指差した。


「おでまし。」


「!」


反射的に振り向くと。


その指の先に、ある男がいた。



                                  To be Continued…



久しぶりにハルヒ連載更新です;
オリキャラ出せなかったなー。残念。でも次は出ますね;;

それにしてもハルヒってハブられるというか;;
知られちゃいけないせいですが仲間外れにされちゃわないと話がすすまないという…
実はかなり不憫なキャラですね…;;

ハルヒのことは嫌いじゃないんですよ。デレたときは可愛くって大好きです。
SOS団では5番目に好きです。(おい)

さー、次こそもっと早めに書こう。


ではでは、読んでくださってありがとうございます!!


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